
最近のコロナウイルス流行により話題になっているエタノール。
エタノールはアルコールの一つ。メタノールもアルコールの一つ。
アルコールと言っても身近にあるものだけで様々なものがあります。
皆さんはアルコールについて正しく理解していますか?特にメタノール。
最近のコロナウイルス流行により、メタノールに対する間違った知識が流行しているのが気になっています。
例えば、「メタノールは目が散るアルコールだから買ってはだめ」「メタノールは危険、使ってはダメ」というニュースを散見するんですよ。
そもそもメタノールは薬事法上毒物に当たるため、一般の方が購入することができません。(こういうことを書くと、劇物になるのはメタノール99.8%以上だとかコメントが出ますが、ここでは割愛)
そして、消毒用アルコールにもメタノールは入っていることが多い。
私は医者でも薬剤師でもありません。
ですので、「メタノールや燃料用アルコールで消毒はできますか?」という処方に関する質問にお答えすることはできません。
一方で、私は化学を学び、創薬開発にも関わったことがあります。
アルコールの化学的な性質は、医師や薬剤師よりも詳しい自信があります。
(多くの化学者はそう思っているはずです)
今回は、化学の目線からアルコールについて簡潔にまとめます。
医療用として使用する場合は、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
みんなが聞いたことのある2つのアルコール
身近なアルコールってどんなものがありますか?
例えば、メタノール、エタノール、IPA(イソプロピルアルコール)などは聞いたことがあるでしょうか。
ほぼすべての化粧品によく入っているグリセリンもアルコールの一つ。
一般名称を見ただけではどれがアルコールなのか絶対にわかりません。
ここでアルコールを並べても意味がないので、一般的にアルコールと呼ばれるエタノールとメタノール。
工業的に安全性を判断する安全データシート(SDS)より、情報をまとめました。
メタノール | エタノール | |
形状 | 無色透明 | 無色透明 |
沸点 | 64℃ | 78℃ |
経口毒性 | 区分4 LD50(ラット) 6200mg/kg 人は1400mg/kgで半数が死亡 |
区分外 LD50(ラット) 15010mg/kg |
経皮毒性 | 区分外 LD50(ウサギ)15800mg/kg |
区分外 LDLo(ウサギ) 20000 mg/kg |
参照文書 | 林純薬SDS | 健栄製薬株式会社SDS |
LD50(ラット) 6200mg/kg・・・50%のラットが死んでしまう量が6200mg/kg。
メタノールとエタノールの違い
メタノールはエタノールと何が違うのか。簡単に解説するとこんな感じ。
- メタノールとエタノールは見た目では違いが判らない。
- メタノールはエタノールより揮発しやすい。
- メタノールは経口毒性(口から飲み込んだときの毒性)について有害性情報あり(区分4)。メタノールは体重の0.6%を飲んでもラットは半数以上死ななかったが、人は0.14%で半数が死亡する。エタノールを体重の1.5%を飲んでも、ラットは死なない。
- メタノールもエタノールも経皮毒性(手に触ったときの毒性)について明確な有害性情報なし。メタノールは体重の15.8%を触れると半数が死亡する(ラット)。エタノールは体重の20%に触れると死亡する個体がいた(ウサギ)。
世間一般で言われる、「メタノールは毒性が強い」「メタノールは猛毒」というのは、あくまで経口毒性。
皮膚に触ったからと知って、死んでしまうようなことはありません。
じゃあメタノールを使ってもよいかいう人がいるかもしれません。
それはちょっと待って!!
メタノールには重要な性質があります。
それは揮発性が高いこと。
経口毒性が高いこと。
例えば、屋内で使う場合。
メタノールは揮発しやすい。
揮発したメタノールは室内にとどまります。
つまり、揮発したメタノールを口から吸ってしまう恐れあり。使っていいとは誰も言えませんね。

逆に屋外で使う場合。
揮発したメタノールはすぐに拡散されるので、蒸気を吸う可能性はかなり低い。
ただし、殺菌する前に揮発してしまうため、殺菌効果は期待できないでしょう。
一般的なアルコールの種類について
一般的に出回っているアルコール。
無水エタノール、消毒用エタノール、燃料用アルコールがあります。
通称 | 無水エタノール | 消毒用アルコール | 燃料用アルコール |
別名 | エタノール | 消毒用エタノール | |
主成分 | エタノール(99.5%以上) | エタノール(60~80%) | メタノール(60%以上) |
副成分 | ― | メタノール、IPA | エタノール、IPA |
はっきり言って、商品名だけで判断するのは難しい。
薬剤師に相談するか、裏側の成分表示でエタノールが主成分(70~80%程度)となっているものを選びましょう。
私が愛用している消毒用エタノールIP。
手の消毒の他、水回りの殺菌などにも使っています。

消毒用アルコール(消毒用エタノール)は、殺菌を目的にしたもの。
ですので、製造メーカーが殺菌に最適な濃度バランスに調整しています。
いずれも飲用不可。
特に消毒用アルコール(消毒用エタノール)はメタノールが入っています。
一方で、燃料用アルコールは、燃やすことを目的にしたもの。
アルコールを燃やすには、ある程度揮発しやすいほうがよく燃えるため、メタノールの比率が大きい。
揮発し過ぎたら殺菌の効果は出ませんね。
メタノールは中学校の理科の実験でも使われています。最近は減っているようですね。
メタノールの殺菌効果は?
実はメタノールの殺菌効果は認められています。
エタノールに、メタノールやIPAを添加したものを変性アルコールと呼ぶのですが、変性アルコールは、エタノールよりも殺菌効果があると報告されています。
エタノール, イソプロパノール, メタノール変性アルコール製剤に関する殺菌効力の検討
(メタノール単体での殺菌効果ではありません。)
今販売されている消毒用アルコールは、メタノールが数%入っています。
例えば、消アルA。エタノール、メタノール、IPAの混合物です。
適切な濃度であれば、殺菌効果が高いということ。
じゃあ、なぜメタノールを殺菌として流通していないのか。
それは、殺菌効果よりも有害性のほうが大切だからでしょう。
メタノールは揮発性が高い。
殺菌効果が出る前に揮発してしまいます。さらに有害性がある。

燃料用アルコールはメタノールが30~50%入っています。
殺菌効果を示す前に揮発して有害性のほうが強いです。
ちなみに、無水アルコールも沸点が低くて揮発しやすい。
掃除などに活用しますが、無水アルコールだけでは十分な殺菌効果が得られない可能性があります。
アルコールの性質まとめ
エタノールとメタノール。
2つのアルコールの違いをまとめました。
- メタノールはエタノールに比べて揮発しやすい。
- メタノールはエタノールに比べて有害性がある。
- メタノールもエタノールも殺菌効果自体はある。
- 純度が高い無水エタノールは揮発に注意する。
- メタノール比率が高い燃料用アルコールは揮発性が高すぎて、殺菌効果が期待できない。
メタノールは有害性物質。これは間違いありません。
一方で、エタノールも完全に安全かと言われるとそんなことはありません。
私は体調が悪いときにエタノール消毒を行うと、赤く腫れます。
つまりエタノールアレルギーなんでしょうね。
エタノールもメタノールも、用法を正しく使えば医療として効果のあります。
一般の方が正しく使えるように製薬メーカーが製造し、薬剤師が販売しています。
医療用としてアルコールを購入するとき。
分からないことがありましたら、勝手な判断をせず、必ず薬剤師の指示に従いましょう。